はてなアイデアについて思うところ

破綻している、とは言わないが、上手く回って無いように感じる。
放置され続けているアイデアが多数あり、あまりユーザ間で株の取引は行われておらず、
アイデアポイントを沢山持っているユーザが色んな要望をはてなへ投げつけられるだけ。
そんな雰囲気だ。
βのサービスとはいえ、はてなのサービスの中でも、ユーザ利用率の低いサービスだと思う。
 
現状がそうなっている原因は、運用側の怠慢(処理の滞納、運用の曖昧さ)によるところが
大きそうだけれど、そもそものシステムにも色々矛盾とかを抱えているからのように思える。
今回はそのシステム的におかしなところとかをつらつら垂れ流してみよう。
 
ちなみにsisuiは、はてなアイデアが実装された時には、はてなを使っていなかった。
なので、当時のことは知りません。その地点はずいぶん昔に通り過ぎた地点だ、と思ってもお察しください。

1.前提の確認

まず、そもそもはてなアイデアとはどういう目的で、どういう仕組みを想像して作られたのかを確認してみよう。

はてなアイデアは、仮想的な市場の仕組を使って、ユーザーの皆さんから
要望や不具合報告を効率的に頂くことを目的とした試験的サービスです。
 
はてなアイデアは、はてなの各サービスへの要望や不具合報告を「株式」に見立て、
仮想的な市場での株式取引を通じて要望や不具合の適正な価値を見出そうとする試みです。
 
特定の物事を株式に見立てて取引し、多数の参加者による市場取引から物事の価値を
見出そうとする仕組は「予測市場」と呼ばれており、Wisdom of crowds集合知)を
生かす仕組として注目されています。

はてなアイデア ヘルプ

と書いてある。
 
まとめると、
 
目的:ユーザから「要望」や「不具合報告」を「効率的」に得る。
仕組み:「予測市場」の仕組みを流用する。
 
ということのようだ。
 
この目的はサービスを売り物にする企業としては必須といえるものだろう。
サービスの改善や不具合の修正を、サービス提供側が日々努力して行い、
カスタマ・サティスファクション(CS:顧客満足)を向上させることが、
この手のサービス業では成長に繋がる。
サービスメニューをいかに増やそうともCSが向上しなければ、成長はすぐに頭打ちになると思う。
この、CS向上という目的に「ユーザの視点」を直接取り入れようとする考えは、
いいことだと思う。(とはいえ「ユーザに頼る」のは間違っているけれど)
 
なので、目的は問題にしなくても良さそうだ。
 
よって、これを実現する仕組みとして、予測市場というのが有効なのだろか?
という、システム的な設計についてを考えればとりあえず良さそうである。

2.予測市場ってなに?

ではまず、例によってWikipediaを読んでみよう。

将来事象に関する群衆の意見を先物市場のメカニズムを用いて一つの数字に集約し、その数字を「予測値」とする。
先物市場の仕組みを使うため、その予測値はリアルタイムで変化し、外部の情報(ニュース等)によっては大きく変化することもある。
 
なお、先物市場と株式市場の類似性から、予測市場は株式市場の仕組みを使っている
という説明がなされることがあるが、厳密な意味では正しくない。
それは、予測市場は、将来事象をもとにキャッシュフローが決定され清算が伴うという
先物市場特有の仕組みを有している一方で、株式市場はそのような清算は伴わないからである。

予測市場 - Wikipedia

概要としてはこれを読めば分かると思うが、実際どんな風な仕組みなのかちょっと分かりにくい。
こういう予測市場を利用したサービスをやっているウェブサイトを色々見てみると
もう少しわかると思う。
国内でそこそこ有名なのはこの辺であろうか。
 
http://kouna.ru/docs/help/#h3-4の「トレード」方式

miraix 遊び方
 
これらのサービスの仕組み、すなわち一般的な「予測市場」のサイクルをsisuiがまとめると次のようになる。

1.ユーザは一律である額のお金(ポイント)を持っていて、基本、それを増やすゲーム・競争をする。
2.ある「将来、決まったある時期に必ず結果がでる事柄」を1つの予測対象として扱う。
3.1つの予測対象に対し、考えられる「予測」をいくつかリストアップし、それぞれについて株券を、
  サービス提供側が発行する。このとき発行する株券の数は上限を設けておく。
4.サービス提供側は、発行した株券の基本(スタートの)株価を決定し、
  結論が出た際の1株辺りの配当額を決定する。
  (例えば、1株100円でスタートして、配当は1株200円とか)
5.ユーザはサービス提供側が発行した株券を、提示された基本株価で購入する。
  ある予測で、買われた株券の数が上限に到達したら、その予測については基本株価での購入はできなくなる。
6.基本株価での購入ができなくなったら(すべての株券がユーザの手に渡ったら)
  以後はユーザ間で株券の売り買いが行われることになる。
  各ユーザは、持ってる株券に値段をつけて「売り注文」に出したり、
  欲しい株券に対して値段をつけて「買い注文」を出したりする。
7.期日が来て、予測対象について結果が出たら、的中していた予測の株券を所有しているユーザに対して、
  所有株券の数に応じて、当初決めたとおりの価格で配当(株券の買い上げ)を行う。
  外れた予測の株券はすべて紙くず(何の配当も、お金の返還も無い)となる

 
この中で、「6.」の部分。ユーザ間で最後に成立した取引金額(株価)と発行済みの株券数を
かけあわせるることでその「予測」の「時価総額」を求めることができる。
株券の総数は基本的増減しないので、取引金額(株価)の上下によって「時価総額」も上下するわけだ。
そして、基本的に取引金額(株価)が高いということは、その「予測」の株券に高い金を出す価値がある、
すなわち、その「予測」が的中し配当が行われる確率が高い、と考えて、
高い額ででも株を買おうと考える人がいる「予測」なのだということになる。
逆も然りで、取引金額(株価)が低いということは、その「予測」が見込み薄、と考え、
安い額でも良いから手放して損を減らそう、とか考える人がいる「予測」なのだという事になる。
 
よって、取引金額(株価)が高い、すなわち時価総額が高い「予測」が
集合知によって推測され、的中する見込みの高い予測」とみなせるということになるのだ。
 
これが、「予測市場」というものの仕組みなのである。

3.現在のはてなアイデアはどのように「予測市場」になっているのか?

では、この「予測市場」という仕組みを、はてなアイデアではどのように流用しているのか、
先ほど書いたサイクルをはてなアイデアに置き換えたり、改変したりして書いてみよう。

1.ユーザは一律で1000アイデアポイントを所持している。
  (所有アイデアポイントランキングとかはあるが、現実へのキャッシュバックは無い)
2.ユーザが投稿した「実装して欲しい要望」「現在発生している問題・不具合の報告」を
  1つのアイデアとして扱う。
3.1つのアイデアに対し、株券をサービス提供側が1000株発行する。
4.サービス提供側は株券の基本株価を一律1ポイントとする。
5.ユーザはサービス提供側が発行した株券を、提示された基本株価で購入する。
  買われた株券の数が上限に到達したら、基本株価での購入はできなくなる。
5a.買われた株券の数が上限に達したアイデアは、「上場」したものと扱われ、
  「倍率」が決定される。
  (=そのアイデアが実装された際の際の1株辺りの配当額を決定する)
6.基本株価での購入ができなくなったら(すべての株券がユーザの手に渡ったら)
  以後はユーザ間で株券の売り買いが行われることになる。
  各ユーザは、持ってる株券に値段をつけて「売り注文」に出したり、
  欲しい株券に対して値段をつけて「買い注文」を出したりする。
7.時価総額などを参考にして、アイデアについて実装などを検討し、アイデアが実装されたら、
  そのアイデアの株券を所有しているユーザに対して、所有株券の数に応じて、
  5aで決めたとおりの価格で配当(株券の買い上げ)を行う。
7a.上場している重複、競合、相反するアイデアがあった場合、そのアイデアの株券は、
  紙くずとなる。(返還されることはある)

さて、「2.」で書いたものと、どの辺りが違うだろうか。結構違うよね。
 
違うところ挙げてみると、おおむね次の4つとなる。

差異A.予測対象、すなわち株券が発行される対象がユーザが考えた「要望」「問題報告」「不具合報告」であり、
 「将来、決まったある時期に必ず結果がでる事柄」では無い。
  そして、予測対象の「結果」を出すのは「サービス提供者側」のサジ加減である。
 
差異B.あるアイデアに対して、発行される株券は基本的に1種類のみである。
 
差異C.配当額が、上場されるまで分からない。最悪、結論が出るまで分からない。
 
差異D.「予測の結果」によって、「予測対象の結果」が左右される

1部分、意味が分かりにくいかもしれないが、詳細は次項で後述するのでそちらを。

4.はてなアイデアが一般的な「予測市場」と違うところ。そしてその問題点

結論から言って、先ほど上げた「違うところ」が、はてなアイデアが上手く無いように感じる
理由となっていると思うのだ。
 
ということで、それぞれの違うところと、その問題点について考察してみる。
 

差異A.予測対象が「将来、決まったある時期に必ず結論がでる事柄」では無い

これによって発生する問題が、

問題A.配当がいつ行われるか分からない

である。
一般の予測市場では、期日がくれば結論が必ずでるようなものが予測対象となるが、
はてなアイデアではそうではない。
はてな(サービス提供側)がそのアイデアを吟味して、何かしらの結論をださなければ、
そのアイデアの株券は永遠に塩漬け状態の箪笥の肥やしとなるだけなのだ。
 
イデアが「上場」してしまうと、ユーザがその株券を手放して、
他のアイデアに使える現金(アイデアポイント)に変える手段は「売り注文」を
出すしかなく、この取引が行われない限り、塩漬け状態からは抜け出せない。
 
しかし、そんな「塩漬け状態」のアイデアを「買う」人はあまりいないだろう。
 
ということで、この「問題A」によって二次的に発生するのが

問題B.各ユーザが使用できるアイデアポイントが不足する

というものだ。
これがもし蔓延すると、市場全体で流通するポイントの総量が減少し、市場は縮小してしまう。
現状、株券塩漬けでアイデアポイント貧乏になってしまった人は、
アイデアポイントを誰かから送ってもらうしか、市場に再度参入する方法は無い。
 
さらにもう一つ、この差異Aに関連して発生している問題がある。

問題C.「不具合報告」がアイデア扱いされている

現状、はてなアイデアでは「不具合報告」もアイデア対象となっているが、
これも予測市場というシステムからするとおかしい。
 
不便な仕様の変更などは「アイデア」でいい。
だが、「通常動いているべきものが動いていない」「説明されている仕様どおりに動いていない」
といった「不具合」は原則として修正されるのが当然なのである。
つまり、こういった「不具合報告」のアイデアは、本来「実装されるに決まっているアイデア」だと言える。
そして、こうしたほぼ確実に配当が行われるようなアイデア集合知で価値を推測する意味がなく、
予測市場に載せる価値のあるものではない。そんな不具合報告の他にもっとユーザ間で検討されるべきアイデアがあるはずだ。
 
こうした予測市場に載せる価値のないアイデアが蔓延し、本来検討されるべきアイデアが埋もれてしまうのは、
システムの効率を著しく損ねることになるだろう。
 
現状「不具合報告」もアイデアで受付けているのは、「不具合対応の進捗確認に使っている」
という認識であるようだが、アイデアがごちゃごちゃするという不利益の方が大きすぎると思う。

差異B.あるアイデアに対して、発行される株券は基本的に1種類のみである。

これは説明するのが難しい……うーん。
 
一般的な予測市場では「ある事柄を対象」にして、複数の予測を立て株券を発行する。
これは「ある事柄」について、いくつも考えられる「予測」の中から、
集合知による信頼性のある「予測」を探したいからだ。
そして、この「予測」は「予測対象」が定義される際に用意されるもので、
あとから増えることはあまり無い。
 
だが、はてなアイデアではこの「予測」がユーザの手によって増えるし、
ちゃんと吟味された「予測」が必ずいくつも用意されるわけではない。
例えば、ある問題点に対して、いくつもの「アイデア」が必ず用意されて、
比較評価されるわけではないのである。
 
では、これによって発生する問題とは何か。

問題D.価値の無いアイデアが実装される恐れがある。

ヘルプでも警告されているこれなどが考えられる。
本来、予測市場においては、ある「予測」に対して、相反する「予測」が必ず同時に立てられる。
なぜなら、その「どちら」の「予測」が良いものかを見分するのが、本来の目的だからだ。
だが、ユーザが「アイデア」を作る、ということは、必ずしもその「アイデア」への
対抗「アイデア」が作られるわけではない、ということだ。
 
微妙な操作性の変更など、本当に集合知が必要なものについて、
正しく「価値」を判断したいのならば、本来そういった「対抗アイデア」は
かならず存在するようにして、その両者の「アイデア」の株価を吟味して、
どちらを採用するかを判断するべきではないだろうか。
 
また、少しずれるが、もし「対抗アイデア」が存在した場合、ユーザにそれが知らされていなければ
ゲームとしてフェアではない……正確には不親切だ。
ある問題に対して、複数のアイデアが挙げられていて、特に相反するような内容であればなおさら
それらはすべて横並びに比較し、どの株を買うかの検討をユーザが容易にできるようにするのが
親切ではないだろうか。
最近少し改善されたが、重複、関連するようなアイデアを検索して探すのは骨だし。
関連アイデア」の設定や、「重複」タグの設定も、すべて「善意のユーザ」がやっているだけのことだ。
本来であれば、この辺りのアイデアの管理はシステム側、サービス側で行うべき仕事だろう。

差異C.配当額が、上場されるまで分からない。

ユーザが株を買おうとする際に、配当が分かっていないというのは
そもそも少し違和感がある設定だ。
確かに、配当の設定は、上場されてユーザ間の取引が行われるようになってからが
一番の意味を持つところではあるけれど、高配当であればみんなその株に興味を持って、
発行されたばかりの株券を買って上場され易くなるという要素がある。
あらかじめ、1.5倍なら1.5倍と明記した方がいいように思えるし、
ヘルプでは「対応にかかる人日」で倍率を決めるような表記になっているが、
そうではなく「そのアイデアの重要度」、すなわち活発に取引させたい度合いに応じた倍率に
するのが本来正しいと思う。
(現在、倍率ははかなりアバウトに決められているようだ)
 
よって、こういった現状の適当な配当額の設定方法は

問題E.ユーザの初期参加意欲の低下

を招くちょっとした要因になる。
まぁ、ぶっちゃけこの「差異C」自体はそこまで大きな問題では無いのだけど。
もう少しうまくやれば、より良くなりますよ、という部分。
ちなみに、前述のアイデアの塩漬け問題はこの「問題E」を招く要因でもある。

差異D.「予測の結果」によって、「予測対象の結果」が左右される

さて、これがsisuiが思うはてなアイデアのもっとも奇妙で、いびつなところだ。
 
本来、「予測市場の結果」は、その「予測対象」の結果に影響を及ぼさない。
つまり、いくら「ある予測」が市場予測で時価総額が著しく高いものになろうとも、
それが要因となってその「予測」の的中率が高くなることは(ほぼ)ない。
 
だが、はてなアイデアは違う。
時価総額が高いものを価値が高い「要望」だと判断し、率先して検討・実装する、
というのがはてなアイデアの目的で、そのように動いているはずだ。
(現状、時価総額が高いものでも延々と放置されていたりするし、
 その通りに動いているかどうかは疑わしいようですが)
 
しかし、それはつまり「多くの人間が買い求めるほど、その要望が実装され配当が
行われる確率が上がる」ということだ。
これはいわば、カジノのルーレットで多くの人間がベットした数字に玉がとまりやすくなる、
ということで、ギャンブルとして見たとき酷く破綻したシステムではないだろうか。
 
この差異によって起こる問題点色々ある、というか、
システムを破綻させてしまっているように思えるが……。

問題F.アイデアの配当有無を、ユーザの介入で操作できる(=不正行為が行える)

という、ひどく原始的な問題なわけだ。
 
具体的な例を挙げるとすると、実装される見込みが高そうなアイデア(軽微な不具合修正など)を
一人の人間が作って、株を買占め、それを他の協力ユーザに高値で売りつければ、
そのアイデア時価総額が上がり、「検討されやすくなり」、実装されて配当が優先的に
行われることになる。こうして、効率的にアイデアポイントを「稼ぐ」こともできる。
 
こういった株価操作は、現実の世界ではそうそうできるものではないが
全株買占めが容易に行える現状のはてなアイデアでは酷く簡単に実現できる。
繰り返しになるが、一般の予測市場では、いくらそうやって時価総額を吊り上げようとしても、
単に「買い手を誘う」だけの意味しかないが、はてなアイデアでは違うというわけだ。

5.ではどうすれば良くなるのか?

sisuiは専門家ではないので、「専門家の人を連れてきて、リセットして一から設計を見直す」ってのが
最終的には結論になっちゃうのだけど……。

改善案1.塩漬けアイデアを徹底的になくして、キャッシュフローを正常化する
改善案2.各アイデアに対して「反対アイデア株」も発行され、それもユーザが買えるようにし、
     その反対アイデア株の時価総額も含めて、そのアイデアを実装するかを検討する
改善案3.配当を「そのアイデアの重要度」で決めるようにする
改善案4.「検討中」のまま長期間放置されている塩漬けアイデアへ救済策を作る。
     (いい具体案は出てこない……株主優待券的なものでも配りますか?)
改善案5.アイデアが投稿され、掲載される前にはてな側で一度中身のチェックをする(多分困難)
改善案6.不具合報告とその受付、履歴管理は別のサービスでやる。
     さもなくば不具合報告アイデアに対する配当の倍率は「1倍」に固定する。

こんなのを適当に考えてみた……どうだろうね。
全部は無理だろうし、これで全部解決するとはとても思えないけれど。

6.あとがき

あまり結論もだせなくて、問題点だけあげつらった感じですが、皆さんどう思ってるんでしょうね。